実に60年ぶりの寒さ!
超大型の台風21号と衆院選選挙が迫る2017年10月21日。日経平均株価の金曜日終値は21458円を付け、何かと嵐の予感の感じられる今日この頃。
天候にはとことん恵まれなかったが、どこかへ旅をしたい気分の高まりは抑えようもなく、僕はふらりと東京都青梅市にやってきた。
青梅は、訪れてみたかった場所のひとつ。自然あふれる奥多摩への玄関口であるが、単なる中間地点とするにはもったいない、旅情あふれるディスティネーションだ。駅を降りた瞬間に待ち受ける空気の違いは、まるで古い邦画の世界に来てしまったかのような錯覚を与える。
古くは綿織物と林業により宿場町として発展した青梅であるが、近年は産業が衰退、シャッター町の寂しさが忍び寄る。それを力強く支えているのが、日本最後の映画看板師・久保板観氏が手掛けたという映画看板だ。赤塚不二夫会館や昭和レトロ商品博物館など、昭和をテーマにした町おこしがされており、この街並みを目当てに訪れる旅人も少なくないのだとか。
僕の大好きな映画「The Third Man」の看板も見つけた。こんな看板だったのか。パロディの看板もあったが、見比べないとよほど詳しい人でなければ解らない気がする……。
なんにせよ、昭和を懐かしむ時代すら過ぎ去り、僕のような懐古趣味でもない限り、未知の世界になりつつあろう青梅。しかしどことなく、大切にしたい、いい感じの町だ。
そんな青梅を訪れた今回の主目的はこちら。
「レンタルCafe ころん」
こちらのお店はちょっと変わっていて、シフォンケーキ屋さんの「ちゃんちき堂」が維持経営するシェアスペース。一日単位で店舗をレンタルでき、志のある人なら誰でもここでお店を開くことができるという。クラウドファンディングで資金を獲得し、仲間たちと廃屋をリノベーションして作られたお店は、青梅を元気にしたいという久保田オーナーの想いがまさに結実した場所で、未来のカフェ・オーナーが集う、”ふるさと”なのだ。
この日は、ゆうみさんが経営する「点景」というお店が営業していた。干物を中心とした”きちんとした和食”を提供するお店だ。
今の世の中、コンビニやファミレスの食事は、なんでも衛生的でおいしいが、そんなディストピア感あふれる食事で毎日を過ごす現代人にとって、手作りの食事ほどうまいものはない。建物の雰囲気ともよく合っていて、いっそう美味しく感じる。時代がめぐって、こういうお店が増えればいいと思う。
僕が頂いたのはさんま定食。パリパリとした皮目がおいしい。今年はさんまが不漁だとかで、高級品になりつつあるが、頭が右を向いているから安く仕入れられたのだとか。お味噌汁や小鉢の内容も材料の在庫状況によってアレンジ。こういったその場その場の対応が人の妙味である。僕の場合、物語の中でしか知らないが、「仲の良い親戚のおうち」とはきっとこういう場所なのだろう。
食後は珈琲とシフォンケーキを頂いた。珈琲は国分寺の「ねじまき雲」さんから仕入れているらしい。深炒り豆を使用し、フレンチプレスで抽出することで、特有のコーヒーオイルが感じられるが、くどさはない。シフォンケーキは、ヤシの木の花の蜜を使っているという「ハニココ」を選んでみた。さっぱりとしたかすかな甘みが特徴的で、日々、人工甘味料に毒された舌がリセットされるような味だ。いろいろと発見の多い食事になった。
昭和も平成も、時代は必ず寂れていくが、それは同時に、新しいことが芽吹く土壌でもある。違うお店が営業しているときも、何度も足を運んでみたい。雨の向こうに広がる青梅の町を眺めながら、この小さな場所の大きさを、ぼんやりと計りかねていた。